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ワインの浦島太郎

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結月でございます。

今日は宇都宮。

いつもの通り二荒山神社に「パンパンッ!」と手を合わせて、東武百貨店へ。するとイベントスペースでは、アンティーク展としてガレやドーム兄弟などのアール・ヌーヴォー、そしてラリックのアール・デコの品々が売られていた。やっぱり美しいなと思いつつ、飾る場所もなければ、毎日眺めるものでもなし、ほしいけど別に要らないという感じ。値段が10分の1くらいなら買うけれどね。

その隣にはワインフェスティバルが開催されていて、それなりの数のワインが売られていた。

ワインはさっぱり飲まなくなって、特にフランスワインはもう何年もまともに飲んでいない。値段が高いから割に合わないし、飲むとなれば1000円未満のチリ産が普通に美味しいのでこちらを買ってしまう。

ブルゴーニュとボルドーがメインに陳列されていて、懐かしい銘柄ばかりでワインをがぶ飲みしていたリヨン滞在時やそれ以後の日々を思い出す。

しかし、お値段はわたしの思い出とはかけ離れたものであり、とてもじゃないが手軽に飲めない。ワインが年々高騰しているのは話に聞いてはいたが、ちょっと高すぎる。わたしが知る値段から3倍から7倍はしている。

ボルドーのシャトー・ラトゥールは安いもので10万円、高い年だと30万円近く。シャトー・マルゴーのセカンドラベル、パヴィロン・ルージュでさえ3万円ほど。その他の馴染みのある銘柄もことごとくすごい値段になっていた。

しかし値段が高くなった要因は、今だと円安だからというものあるし、中国人が飲むようになって高値で買い占めるからというのもある。とにかく日本人が普通に飲めるものでなくなった。

とは言え、価格は高騰していても中身の味が昔と変わったわけでもなく、一通りは飲んでしまったわたしはその値段で飲もうとは思わない。

とまあ、店員といろいろ話しながらワインを眺め、実は5歳の愛娘がケンタッキーフライドチキンが食べたいとか言い出しているので、それにボルドーの赤でも合わせようと少しは思ったが、お値段を見て、

「氷結だな、やっぱり…」

と、店員には申し訳ないが、買わずに帰ってきた。

しかし、久しぶりにワインを眺めて、フランスのボーヌで収穫祭に行った日のことを思い出す。ワインカーヴの中でたくさんの銘酒を試飲し、名物のブルゴーニュ風のステーキを食べた。ブルゴーニュのワインで作られたソースが有名なのである。

試飲会に行ったついでに「ヴォーヌ・ロマネ」をボトルで買った。それはロマネコンティを抱える大きな地域であり、ロマネコンティだけでなく特級の銘柄が揃っている。

そんなヴォーヌ・ロマネをリヨンのアパルトマンに戻ってから、ソーヌ河に出るマルシェで行きつけの屋台でプレ・ロッティを買って飲んだのだった。大変美味しく、日曜日のリヨンの朝の空気が身に染みた。

マルシェは朝しかやっていないから朝飲みである。思えば、ヴォーヌ・ロマネはリヨンの空気の中で飲んだから格別であったのであり、日本で飲んでもそれほどは感じないだろう。

食というのは「場」が重要であり、その土地のものはその土地で味わうのが一番なのである。

山女魚の塩焼きは奥日光で食べるのがうまいし、北海道の搾りたての牛乳はその牧場で飲むのがうまい。馬刺しは熊本で食べるべきだし、紹興酒は中国の浙江省で飲むとしっくりくる。

ブイヤベースはマルセイユの港で食べると最高にうまいし、ホットドッグはマンハッタンで頬張りながら食べるとうまい。

さて、そんな懐かしきヴォーヌ・ロマネは今日陳列されていて、わたしがボーヌで買った銘柄よりも下位のものだったが、お値段は1万円ほどだった。

ワイン道楽はまだワインが安かった時代に済ませておいてよかったと思う。今、同じだけの道楽をしようと思えば金がかかりすぎるし、そもそも中身は変わっていないのに物価事情のせいで普通のものが高級品と錯覚して判断を誤る。

おかげでもう飲む気はせず、飲まなくても味がわかるからそんなにときめきやしない。また飲んだ後が体がキツいという衰弱ぶりで、ワインはもういいやと思える。

しかし、相対的に日本が貧乏になったのは間違いなく、わたしがワイン道楽をしていた年頃にいる今の人はとてもじゃないがそんな気分にならないだろうし、そこそもそこに金をかけることを無駄だと思うだろう。

貧乏は人を小利口にさせる。つまりケチ思考は節約という名の合理化を進めるわけで、ダイナミックな冒険をしないから要領重視の小利口になる。

わたしはギリギリいい時代を楽しめたわけである。そして、ワインに関しては浦島太郎状態で、今のお値段に驚き、ため息をつき、ワインで道楽していたのは竜宮城での日々だったのだと遠くに視線をやる。

というわけで、ワインは買わず、セブンイレブンでPBとして出されているグレープフルーツの缶チューハイを買った。350ml缶でなんと100円である。

ブルゴーニュのワインでなく、セブンイレブンの缶チューハイを氷を敷き詰めたステンレスタンブラーでゴキュッと飲むと、

「うまー!!」

と、爽快感。

これで100円は驚きである。アルコール度数も6%で飲んでも体がキツくなることはない。

日本の貧乏体質はここまで技術開発を進めたのか。100円でこんなにうまいものを楽しめるようにする、すなわちケチ根性、というか100円でないと売れないほど日本は貧乏なのだ。

思えば、わたしがリヨンから帰国した頃、ちょうど発泡酒としてサントリーホップスなるビールもどきが売り出された。350ml缶で150円くらいで当時としては驚きの価格。しかし、大変不味かった。安かろう悪かろうであった。

ところが今は第3のビールなど開発が進み、かなりの水準に達している。アサヒのザ・リッチなんて安いのにそこそこ美味しく、これでいいじゃんと思わせる。

ワインは高くなって飲めなくなったけれど、缶チューハイや第3のビールが安いのにうまい。

貧乏ニッポンの涙ぐましい企業努力。日本人はフランスワインでなく、缶チューハイを美味しく飲むのである。

竜宮城は楽しかった。

玉手箱を開けると、目眩がしそうなワインの値札があったのであった。

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