結月です。
今日は7歳になった愛娘に「逢魔時」(おうまがどき)の話をした。
黄昏時には魑魅魍魎やよからぬ悪霊や低級霊がゾロゾロと出てくる。そういうものは太陽を嫌い、夜が好きだからね。そんな話をする。
わたしはずっと夜が好きで、黄昏になるとそわそわとし出して、銀座にいるときは開店したばかりのバーに繰り出したくなったもので、黄昏を愛していた。
昼はどうも疲れるし、心が躍動せず、力が全開でないのを感じつつ生きていた。そして夜になると元気になる。それゆえに大昔は夜勤の仕事をしていたときもある。
そんな話を小学1年生にする。
でも今はそうでないんだと話す。やはり朝が最も清らかで、陽の光が出ているときに仕事するのがいい。夜はいけないね。夜は余計なことを考えるから。ネガティヴになるし、マイナス思考になる。だから夜は辛い。鬱病になりそうで夜の時間を過ごすのは辛いんだ。
また年のせい?なのか昔のように熟睡できなくなった。いくら長くても4時間以内に目が覚める。そして二度寝しても6時前にはちゃんと起きられる。
であるからして、夜中に目が覚めていることが多く、公演のことなどうんざりするほど考えてしまうのであるが、発想がネガティヴになる。だからよろしくない。悪いほう、悪いほうにばかり考えてしまって、これが精神的にキツい。
もうずっとであるが、コンサートの仕事を始めてからは寝るときは電気を消さない。真っ暗にすると必ずと言っていいほど悪夢を見る。電気をつけっぱなしで明るくしているとそこまで悪い夢は出てこない。
というわけで、あれだけ黄昏が好きで夜になると生き生きとしていたのが、今では夜が憂鬱で、逃れたいものになっている。
朝になるとそんな悪いことは考えることなく、太陽の光があると目の前にあることに理性的に、合理的に取り組むことができる。
とまあ、そんな話を7歳児にしていた。それは7歳児に伝えたいという理由でなく、ただ夜の憂鬱から逃れたい気持ちからで、「逢魔時」のことなんてまだわかりやしないのに大人を相手にするように話していた。
「悪魔が夜来る」
これは大昔のフランス映画のタイトルで、原題は Les Visiteurs du Soir だから「夜の訪問者」か。「悪魔が夜来る」は邦題だけれど、悪くはない。
マルセル・カルネ監督の作品で、映画史の傑作中の傑作「天井桟敷の人々」の前に撮られた映画。1942年の作品。
フランスにいた頃、リヨンだったかパリだったかで見たと思う。内容はあまり憶えていないが、邦題で知っていた映画だった。
「逢魔時」のことを小学1年生に話していたら、
「悪魔が夜来る」
と自然に口にした。
早朝の清々しい時刻に来る悪魔なんて聞いたことがない。やはり悪魔は夜来るものなのである。
とにかく、人間は夜に考えることでろくなことがない。ましては酒でも飲んで酔っ払っていると尚更悪い。
お酒を飲むと鬱っぽくなるというのは本当で、わたしは長らくそういう医者がよく言うようなことは嘘だと思っていたが、それは本当なのである。
わたしがそれを認められなかったのは、その頃はお酒を飲んで泥酔して寝ていたから鬱っぽくなることをあまり感知していなかったからだろう。あとは目覚めていてもすでにネガティヴになっているから気付きやしない。自分の体臭を感知できないのと同じである。
しかし、お酒もそんなに飲まなくなって、たまに飲むとメンタルがマイナス思考になる。それは結構キツいものだから、
「飲まんほうが肉体だけでなく、メンタルも楽やわ」
と思うようになった。
とはいえ、難解な仕事をしているとかなりのストレスがかかっていて、強制的にそれをOFFにしたくなるときはハイボールくらいはちょっと飲みたくもなる。しかし、飲んでいる最中はいいけれど、飲んだあとがやはり悪魔が来てしまって辛い。だから後悔する。
今よりももっと若かったときはギラギラしすぎていて、きっと酔っ払っているほうが抑制されて楽だった、と振り返る。
ところが今はいろんなことがわかるようになって、ちょっと達観したこともあったりするとお酒が自分を陥れるだけになってきて、楽しくもなんともないわけである。
それも達観のひとつかもしれないが、ノンアルコールだと7歳児のバイオリンを見たり、勉強を教えたり、本を読み聞かせたりできるので、夜であってもそこまで悪くはない。
そんな実体験から「飲酒は鬱になる」がわかるようになった。
そんな理解がわたしという人間にとってはなかなかの成果で、それがわかるのにものすごく時間がかかったが、単なる知識で「飲酒は鬱になる」をつぶやいているわけでないからリアリズムな自信があるのである。
とまあ、7歳児に「悪魔が夜来る」と話した。
なんのことだかわからない様子だったが、それでよろしい。大人になったら思い出してくれればいい。きっと大人になったら逢魔時にうようよと出てくる魑魅魍魎を知るだろうから、その時は「悪魔が夜来る」を思い出せ。
ともかく、夜に考え事はしないほうがいい。いや、してはいけない。考えることは太陽が出ている時間に済ませること。
どんなに考えなければならないことが山積みでも夜にしてはならない。ドツボにハマるだけでいいことはないし、道を誤る。夜に考えたことなんて、しょーもない上に悪質なものばかりである。
それゆえに夜にSNSは禁物である。SNSは思いや意見を述べる場にはしてはいけない。Facebook、Twitter(X)そういったものは夜に書き込むのは避けるべきで、LINEも夜は連絡事項にとどめておくこと。
悪魔は夜来る。