結月でございます。
思えば、芸術的なものって結構廃れていて、その代わり、職人的な高品質なモノはたくさんあるように思う。
工業製品もそうで、ハイクオリティでしっかりと作られたものがたくさん。
むしろ劣悪なモノは淘汰されてきている気がして、それはAmazonのレビューなどで消費者がシビアに感想を書けて、しかもそれが瞬時に公開されて売上に大きな影響が出るから、作るほうもテキトーなモノは作れなくなっているせいもある。
つまり、粗悪品が少なくなった。
ちょっと前、具体的には10年くらい前では「中国製」と聞くと、イコール粗悪品という位置づけで、実際にそうであったりした。ところが今は中国製でもものすごくきっちりと作られているので、「中国製」であるかどうかはもう判断の材料にならない。
それは中国も経済成長して、中国国内でも粗悪品が売れないという段階になったからで、それによって管理がきっちりとし、さらに製造技術も向上してちゃんとしたものが増えたせいでおもある。
そう言えば飲食もそうで、外食しても「クソまずい」ものには出会わなくなった。昔はラーメン屋など、本当に粗悪なものがたくさんあって、チャーハンを頼めば油でベチャベチャという昭和なものもあった。
コンビニだって弁当は普通に美味しいし、スイーツとなると本当によくできていて、専門店レベルと言っていい。
おそらく、こうすれば美味しいものができるというレシピが共有されたからで、ラーメン屋だってその基本さえ外さなければ不味いモノはできない。
わたしはピザが好きだけど、どこのピザを食べても美味しく、サイゼリアのプライスでも美味しいし、釜焼きなんてまったく珍しくもない。
だから、総じて今は職人的な技でちゃんと作られた高品質なものが当たり前の時代になっている。
わたしが仕事にしている音楽も、まあ演奏家たちは上手い。極東アジアの日本のくせに西洋音楽をやって、クオリティの高い演奏をしてしまう。
演奏技術は素晴らしく、アンサンブルもバッチリ。それなのにチケットは安い。
さて、そんな職人的な時代の中、芸術的なものは廃れているようで、上手い下手という判断の外側にある「なんだかよくわかんないけどスゲー!」みたいな芸術の力は弱まっているように思う。
工業製品、例えばカメラとかスマホとかそういったものは便利さと高機能が大事なところだから、「なんだかよくわかんない」というのは困る。だから、ものすごくきっちりと作られている。
ところが芸術は絵具で殴りつけたような意味不明な抽象画が、
「なんだかよくわかんないけどスゲー!」
というパワーを不思議と感じさせたりする。
そこには上手いとか、下手とかがない。
確かにラーメンでそれだったら食えない。
音楽は芸術なのだけれど、世の中が職人的高品質な時代のせいか、ものすごく上手な演奏はたくさんあるけれど、
「なんだかよくわかんないけどスゲー!」
という演奏はほとんどない気がする。
いやいや、上手いんだけど、すごく上手いんだけど、上手いで終わってしまう演奏。それどころかその演奏が説明的で、
「そういうことなのね」
と、納得して終わる演奏は多い。
そこで何十年も前の演奏をCDやレコードで聴いてみると、
「技術的には雑な気がするけど、スゲー!」
というよくわかんないうちにぶっ飛んじゃう演奏が多々ある。
本当に今の人は上手い。外さない演奏。雑さがない。緻密である。
でも、すごくないんだよなぁ。
いやいや、そこまで弾けたらすごいっちゃすごいんだけど、もっと動物的なっていうか、
「くさやの干物って臭っさ!!」
みたいなものがないんだよなぁ。
なので、音楽もよくできた工業製品みたいになってきたのかもしれない。
言ってみれば、頭が良すぎる演奏っていうかさ。
なので、今は音楽は芸術ではなくて、高度な職人芸なのだろう。そう思う。
上手すぎて駄目っていう逆説。
でも、スマホとかデジタルカメラだといいんだけれど、音楽なんかはもっとぶっ壊すことが必要かもね。つまり、築き上げた卓越したその職人的高品質を。
そうそう。小説も同じかもしんない。
今の作家って、上手だよね。だから、商品としては整っているんだけど、
「くさやの干物って臭っさ!!」
というものがなくて、どれも同じ、みたいな。
もうフォーマットができてる感じ。
だから、文学もぶっ壊さないといけないね、そろそろ。
一応、ジャンルが芸術ってものは、工業製品みたいな高品質でなくていいわけだから。でもそれは素人っていうわけじゃない。
「芸術は爆発だ!」
って、そういうことなんじゃないかな。
芸術がフランチャイズになっちゃね、つまんないね。
平均的なハイクオリティでなく、
「くさやの干物って臭っさ!!」
みたいなオリジナリティと、
「なんだかよくわかんないけどスゲー!!」
という意味不明な貫禄。
食べるものも電気製品も高品質でよくできていて、それを開発し、作るのはものすごい知恵が結集しているのだろうけれど、ジャンルが芸術なものは上手い下手という判断の外側に居続けるのがいい。
ロックが流行らないっていうのも職人的高品質な時代のせいなんだよなぁ。