結月でございます。
NHK交響楽団というのは日本でのトップオーケストラで、歴史も長い。演奏者も一流だし、招く指揮者も一流。
だけど、演奏はつまらないんだよね。
なんて言ってしまうと、N響には一緒に仕事したラブな演奏者がたくさんいるからビミョーな気持ちになってしまうのだけれど、NHK交響楽団としての演奏を聴いて、すげえなって身震いすることってわたしとしてはほとんどない。
多分、それはクラシックファンのある程度の人もそう思ってることじゃないかな。
N響って確かにうまいんだよ。すごくきっちりとしていて、ちゃんとやってる。うまいんだよなぁ、ほんとに。でも感動しないんだ。
それはN響の長きに渡る歴史が、まるで読売ジャイアンツみたいに保守的にさせているのか、それはよくわからない。でもそんな気もする。
きっとさ、N響ってさ、うまいからコンサートやる前からもう完成しちゃってるんだよ。だから、コンサートではすでに出来上がったものがなされているんだよ。
つまり、破綻のドキドキ感がないんだよ。
それはフランス料理をコースで食べるみたいなもの。フランス料理でなくてもいいけど、コースで決まったものってあるじゃん。
あれって、もうレシピもガッチリ決まっていて、決まったものを、ちゃんと作って、同じように寸分違わずに出すんだよね。そうしたほうが客もわかりやすいし、作る方も楽だしね。
だから、わたしはフランス料理に限らず、ちょっとしたレストランに行くときは絶対にコースなんてものは頼まない、絶対にアラカルトで頼む。
料理人だって、定額のコースを頼まれるより、ガチンコなアラカルトで頼まれたほうが緊張するしね。
N響はよくできた料理店の、失敗のないコース料理みたいなものだと思う。そういう演奏が多いと思うんだ。
本当に破綻しちゃったら駄目なんだけど、破綻しちゃうかもしれないくらい予測不能で、ヤバさがギラつくものって音楽に限らず魅力がある。
でもN響って上手すぎて、破綻しそうにないんだよなぁ。
ITの世界っておもしろい。
例えば、OSやアプリのリリース。
あれって、完璧じゃないんだよ。7割くらいの出来でリリースしちゃってる。そして、リリースしたら、いろんなところでバグが出て、利用者からバグ情報が寄せられる。
そして、そこからバグを修正して、改訂版をアップデートさせていく。
最初から完璧なものなんてできないから、とりあえずリリースして客に使わせてからバグを発見し、後から修正するというやり方。
一見、無責任に見えるけど、アップデートを重ねながらクオリティをどんどん上げていくところがおもしろいよね。そして、終わりはなくて、完成形ができあがらないうちに、次のテクノロジーは進歩していて、新しいOSができて、それがまた不完全な出来の状態でリリースされる。
音楽もさ、リハーサルで仕上げる必要なんてないんだよ。70%でいい。残りの3割は本番のステージの上でバグ修正していく。
演奏しながら、
「マジ!フルートの奴、こんなことやっちゃってるよ!攻めすぎだろ、おい!」
なんてことを瞬間で感じ取って、瞬間で修正、というか瞬間に対応していく。
その対応は未発見のものであり、修正じゃない。常に未体験な新しさの連続。
そして、演奏が終わって、なんかこんなスゲーの、できちゃった!みたいなね。
このやり方は当然、失敗のアップデートのOSがあるように酷評されることもある。でも、そのほうがおもしろい。
上手だけど、完璧に出来上がったものは、コモディティ化するんだよね。
そう。N響は音楽のコモディティ化だと思うんだ。
N響はNHK受信料で成り立っているから、あまりふざけたことはできない雰囲気はあるかもしれない。
受信料って音楽に興味ない人も払ってて、その金でオーケストラやってる。ここは純粋な音楽事務所とは大きく違うところかな。イメージ的には税金に近い。
となると、既得権益だから演奏がおもしろくなくなるのかもしれない。
ものすごく上手いんだけど、ハングリー精神が感じられなくて、日本の中では古い歴史を持ってはいてもやっているのは西洋音楽で、ドイツのように音楽そのものの伝統があるわけじゃない。
また、アメリカのオーケストラみたいにいろんな人種が集まって、コスモポリタンになるわけでもなく、あくまで日本人が西洋音楽をやって、日本の中で権威があるみたいなさ。
やっぱ7割の状態でステージに立つのがいいと思う。それは破綻するかもしれない。でもギリギリのところで破綻させないバグ修正の腕前で音楽を未知の領域に導くような演奏。
それがいいか悪いかはわからない。
N響奏者に訊けば、今の演奏がいいんだと言うかもしれない。N響が大好きで、結月、何言ってんだ!このクソ!っていう意見もあっていい。
ただ、わたしは7割でバグ修正派かな。ヤバいほうが好きだから。
音楽なんて答えがないんだからどうだっていいのだけれど、N響の演奏には熱くならないんだよなぁ。演奏が予測できちゃうんだよなぁ。そして予測通りなんだよなぁ。
やっぱさ、
「NHKを、ぶっ壊〜す!」
みたいな演奏が聴きたいね。