結月でございます。
週末や休日になると保育園が休みの5歳の愛娘を連れて遊びに出かけるのであるが、最も回数を行っているところは那須の千本松牧場。
ここはヤギや羊に餌をあげられる「ふれあいコーナー」があって、5歳児のお気に入りなのである。さらにウサギやモルモットも触ることができる。
あとはとりわけやることはなく、千本松牧場オリジナルのソフトクリームを食べるとか、昼食時には手打ちそば屋があるから、そこでフレッシュなざるそばと天ぷらを食べるくらい。
それでも回数が多いのはクルマで1時間半ほどで行ける距離で手頃であり、入場料も駐車場料金もなく無料であるから。このシステムは同じ那須にある南ヶ丘牧場と同じであるが、千本松牧場のほうがやや軍配が上がる気がする。
そこには売店があり、千本松牧場で仕上げた牛乳やチーズ、さらにハンバーグやステーキが売られている。
そうした製品は千本松牧場で飼育された牛によるものであるが、ちょっとそのハンバーグは食べようと思えない。
なぜなら「ふれあいコーナー」に可愛い牛がいて、まだ小さい。その牛が大人しくて人懐っこく、わたしのお気に入りだからである。あの牛が将来、ハンバーグにされるかと思うと食べる気にならないのであり、実はその仔牛が来る前に老年の牛がいて、その牛にもわたしは干し草を買って与えていたのである。しかし、仔牛と入れ替わるようにいなくなってしまい、年齢的に潰されて牛肉にされたのだろうと推測する。
同じく大人のヤギもいつしか少なくなり、その代わりにとてつもなく可愛い子山羊がいるところを見ると、あれも潰されて肉として販売されたのであろうか。羊も同様である。
そんなわけで人間は嫌いだけど動物が好きなわたしとしてはヤギや牛にもすぐに愛着を抱いてしまうため、そこで育った動物たちがハンバーグになっていると思うと割り切れぬ気分になって駄目である。
羊も大変可愛らしいのが一頭いて、訪れると毎回頭を撫でている。あの羊が併設されている食堂でジンギスカンになると考えるとあの場所でジンギスカンは食べられない。
とまあ、そんな話は昔、女子チーズというものを北海道の牧場で作って販売したときに牧場主から聞いた。
乳牛も乳を出さなくなると潰して肉にするそうである。牧場としてもそんな牛をずっと飼い続けるわけもいかないから、ドナドナというわけである。
というわけで、さすがに愛着がイメージとして描ける場のハンバーグは買えないということで、売り場でもハンバーグやステーキ肉は見ないようにしている。
しかしそれでいて、千本松牧場に行った帰りには愛娘とマクドナルドのドライブスルーでダブルチーズバーガーを買っているのだからいい加減なものである。
ところでそんなマックのドライブスルーであるが、マイクに向かってこちらが注文をしようとすると出合い頭一発でオススメのバーガーを「いかがですか?」とやられるのは毎回ムカッとくる。
客が注文を発しようとするのを押し除けてオススメを押し付けてくる。こちらはオーダーは決まっているのだから余計なことはしてほしくない。それに要らないオススメを聞くその数秒の時間が無駄でまどろっこしい。
さらに「何某いかがですか?」と言った直後に「ご注文お伺いしますー」と来る。これはコミュニケーションとしてどうもおかしい。一方的にオススメをしておいて客に考える時間を与えないのだからいつもその論理的欠如に頭がふらつく。
オススメ商品はシーズンに合わせた限定メニューであることが多いが、そのオススメ枕詞も店員でさえ面倒なマニュアルになっているから超早口で、マニュアル通りに言ってますという既成事実作りである。店員だってアホらしいと思っているからこそそうなっていることを全店舗でやらせるのはどうなのだろうか? そのオススメをすることでその品物を注文する客はどの程度の数なのだろうか?
と、そんな疑問を持ちつつ、マックの秋の代名詞「月見バーガー」を勧められると不機嫌になるわたし。
なぜなら、月見バーガーの目玉焼きが好きでないからで、あんなものを頭ごなしにオススメされると頭にくるのは、わたしのハートはダブチであるからである。
しかし、月見バーガーは秋の恒例となって息の長い商品で、売れているのだろう。あの目玉焼きのどこがいいのかさっぱりわからない。
ところがうちの愛娘は玉子が好きで「エグチ」が定番メニューなのである。最も近しい身内、わたしの遺伝が8割はあるほどわたしに似ているのに、
「なんでお前、エグチやねん!」
と思いつつ、5歳児のためにエグチをマイクに向かって告げる。
そしてその裏切りはエグチだけでなく、マックナゲットが好きというところにも現れている。
わたしはナゲットが嫌いでないが、わざわざ買おうとは思わない。マックフライポテトがあれば十分じゃないか。
ところがマックナゲットは意外にも支持率が高いようで、昔、銀座で愛人の美人とワインを飲むためにマックをテイクアウトしたのであるが、彼女は迷わずマックナゲットを注文した。その価値観にわたしは驚愕してしまって、
「ナゲット、食べるんだ…」
と、些か幻滅したが、ワイン飲んでナゲットをつまんでみると、
「ワインにマックナゲットもナイスだね〜」
なんてご機嫌なわたし。
やはり食に関しても閉鎖的にならずに違う価値観に出会い、受け入れることがいいようである。
とは言え、わたしはこう見えても一途で保守的なところがあるから、好きと思ったらそれ以外は興味を持たなくなり、そればかり食べたり、そこばかり行きつけたりする。
他のものを試すという浮気が面倒であるから、狭く深くなのである。
だからこそ、他人によって違う価値観を提供されると驚いて、結構こだわりなく受け入れる。
とは言え、マックナゲットだけは自分では注文しない。なぜなら、フライドポテトだけは絶対に外せないからであり、マックナゲットが入り込む余地はないのである。
さて、ハンバーグを買う気にはどうしてもなれない千本松牧場のカマンベールに興味がある。しかし800円ほどで雪印のものの倍以上のプライスで、
「そこまではいいか…」
と、買わずに帰る。これもきっとお酒を飲む量が激減したからであり、ワインも飲むとキツいからほとんど飲まなくなったせいである。もしいいワインを買ったなら、800円のカマンベールなんて迷わず買うのであるが。
しかし、いくらいいワインがあったとしてもあそこのハンバーグとステーキだけは無理。
だっていつも干し草をあげるあの牛のことを愛しすぎているから。