結月でございます。
今年は公演をやるために日々、様々な業務がある。であるからして、本をゆっくり読むことがない。
それでも寝る前にはスタニスワフ・レムの大変難解な小説をちびちび読んだりしている。ちびちびだから進む速度は遅く、なかなか読み終わらない。
しかし、本というのは暇つぶしにはとても安上がりなものである。本は楽しいから読むのであって、すなわちレジャーである。
おまけに良質な小説は内面も豊かになる。これは間違いなく、そういう本をたくさん読んでいるか読んでいないかは人として大きな差になって現れる。
無論、本以外の経験が豊富であれば、本を読んでいなくても内面が豊かな人はいる。しかし、活字で読むほうが経験の追体験の速度も速く、想像力を鍛えられるからやっぱり良質な本は読んだほうがいい。
ただし、一口に言っても本の形をしていてもつまらない本はたくさんあるから「良質な本」限定の話。
わたしは毎日、何を食べるかに迷う。保育園を終えた5歳児といつも迷っている。つまり、食べたいものがないのである。田舎にいるものだから外食といっても限られているし、決まったものしかない。かといって、公演の業務を終えた後は料理なんかする気も起こらない。
それにおいしいものはこれまでにたくさん食べたから、グルメに関して興味がないのである。
そうは言っても、5歳児と食事はしなければならないから、例えばショッピングモールのフードコートでリンガーハットを食べたりしたりする。
2人だと1000円ちょっとは払うことになる。ファミレスなら1300円ほど。回転寿司なら1800円くらいであろうか。
しかし、それらの食事はとりわけおいしいものでもない。リンガーハットはおいしいけれどびっくりするほどのものでもなし、ガストなんかは正直に言うとまずい。回転寿司だって寿司としてはおいしいものでない。
要はそんなもののために毎回1000円以上も払っているのである。
スーパーで買い物をして自分で作れば安くできなくはないが、それなりの材料を買うと5歳児と一緒となれば外食とさほど金額的には変わらない。であるからして、一日の食費は1500円から1800円程度ではないか。
5歳児には食べさせなければならないから仕方がない。しかし、どうでもいいような内容のファミレスとか、そんな出費を考えると本というのはコスパがいいものだと思う。
食べるものと本を同列に扱うのは論理的ではないけれど、本質的な内容として見れば良質の本は安いくせに中身がずっしりとある。
今読んでいるスタニスワフ・レムの小説なんかは絶版が多いからAmazonの古本で買う。すると一冊が300円程度である。
こんな素晴らしい小説がわずか300円。それで何日も楽しめる。さらに内面の豊かさにも貢献する。
それに引き換え、ガストの食事はなんなのだろう? 先日、那須の近くで食べたいものがないからボロネーゼスパゲティを頼んだら、出されたものがあまりにもショボくて失神しそうになった。
なんたる惨めな思い。
こんなものをわざわざ食べることが情けない。仕方がないからほうれん草とチーズの何かを追加注文した。そしたらお子様ランチを合わせて1600円くらいした。
わたしは内容が伴わない出費が大嫌いで、それはサラリーマンでなく自社として仕事をしているせいだろう。
経費を費用対効果として見るからで、かけた費用の元も取れないことは勘弁ならない。
と、行くところがないからつまんないとわかっちゃいるけれど訪れてしまったガストで大きな後悔。しかし、ファミレスはそんなものである。
それに引き換え、レムの小説が300円。ガストの出費で5冊は買える。
ついでに言ってしまうと、先週だったか、お台場にあるレゴランドに5歳児を連れて行った。YouTubeで見て行きたいと言われたからである。
気が進まなかったがネットでチケットを買い、レゴランドに行ってみたが、2人で5600円も取られたのになんなんだ、このつまらなさは。これはひどい。二度と行かん。
5600円なんてレムの小説が20冊近くも買えるじゃないか。ジェネオケの旗揚げ公演ならB席で極上の第九が聴けるじゃないか。
わたしはレゴランドに著しく落胆してしまい、帰りのゆりかもめでは無駄に失った入場料5600円を哀れんで無口になった。
なんたる出費。本を買うほうがいい。
本ならドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を全巻を新品で買っても5600円はしない。古本なら900円で買える。それでいて『カラマーゾフの兄弟』を読むとなれば1ヶ月だってかけられる。さらにあのものすごすぎる内容。
本というのはすばらしい。さらに今は電子書籍の普及のせいで、紙の本が古本で二束三文で買える。
ニーチェのハードカバーの全集。これは高校生のとき、わたしは京都の三条にあった古本屋で忘れもしない48000円で買った。どうしても欲しくて当時の高校生にしては大きな買い物をしたのである。
しかし、そんな本は今は買い手がないから、7000円で買える。古本屋としても置き場所として邪魔だから安くていいから買ってくれというプライス。
ニーチェの全集だと全部読むのに1年では足りない。それに難解な哲学だから、読んだとしてもそこから迷宮入りするから何度も読める。
ニーチェ全集だとそれだけ長く楽しめるのに、一体レゴランドはなんだったのだろう。
ガストなんか行くなら、クラシックのCDを買ったほうがよかった。世界一流の演奏が家で何度も聴ける。
というように世の中はつまらないものにもそれなりの金額がついている。だからどこに金を使うかで随分変わってくるわけで、冷静に考えれば本を買うほうがコスパがいいのである。
本があれば、何時間だって暇つぶしができる。それは最高のレジャーだと言っていい。
わたしにはそのレジャーの時間がないけれど、それでもつまらないものを食べるための出費をするたびに、
「これだったら、本を買ったほうがいい…」
と思う。
何も残らない出費は嫌なものである。
いいもの食べても、いいもの飲んでも排便排尿されるだけ。
そして、おいしさは舌の上からすぐに消えてしまう。
そんな刹那のために金を使うのが馬鹿らしい。
しかし、これも豊饒な無駄遣いをしてきた果ての達観であり、5歳の愛娘に理解できるものではない。
であるからして、無駄な出費で付き合わなければならないのである。