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チャン・イーモウの新作を観に行こう

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結月でございます。

今日は土曜日。保育園が休みであって、宇都宮へ行く。そこには「ヒカリ座」という思い切り昭和な映画館があって、その建造物の風貌は70年代なのである。どこから入っていいかわからないほどちょっと廃墟になっているが、その一階部分はこれまた昭和か平成初めという古きゲームセンターがある。なんと、そこには「バーチャファイター」がまだ現役で動いている。

とにかく、宇都宮のオリオン通り界隈は昭和がそのまま廃墟臭を漂わせながら生きながらえていて、タイムスリップしたような気分になる。

そんなヒカリ座はスクリーンが二つあって、50席程度と140席程度であったか。

しかし、名画座になっているから週替わりで貼られているポスターは名画が多い。この間はジャン=リュック・ゴダールの『気狂いピエロ』がやっていて、そのあとは同じくゴダールの『勝手にしやがれ』だった。

どちらも何度も観た映画だけれど、スクリーンで観る機会はなかなかないから特に『勝手にしやがれ』は久しぶりの観たいと思っている間に終わってしまった。

そんなヒカリ座にはチャン・イーモウ監督の新作『ワン・セカンド』のポスターがあった。

2020年の作品で、チャン・イーモウが新作を出したのは知らなかった。調べてみると全国公開が今年の5月だったらしく、メインの劇場が終わった後、昭和のヒカリ座に流れてきたのだろう。

これは絶対に観にいく。開始時間が9時40分であるから、愛娘を保育園に送ってからそのまま宇都宮に直行する。

どうやらこの新作、文化大革命の話らしい。チャン・イーモウは世代的に文革のテーマを扱える。

何年か前に銀座で『妻への家路』を観たら、映画館で号泣なみの涙が出た。あれには参った。わたしがこの世で最もすごいと思っている女優、コン・リーだったからというのもあるが、あれには泣いた。感動しすぎた。その後、DVDも買って自宅で観たが、やっぱり泣きじゃくった。

その頃、DVDでうちの中国人女と一緒に観たら、あいつも泣いていた。あれは中国人だったら絶対に泣く。でもわたしは日本人である。

やはり文化大革命がどんなものだったかを知らないと泣けない。だから大半の日本人は『妻への家路』を観てもいまいちわからないのではないか。銀座の映画館でも目を真っ赤にして外に出たのはわたしだけだった。

中国史であれほどひどいことがあったから、チャン・イーモウにとっても文革はど真ん中で忘れられないのだろう。だから、文革の作品を撮る。

今回の『ワン・セカンド』も文革だから泣いてしまうかもしれない。

ちなみにわたしが何度観ても泣いてしまうもう一つの映画はチェン・カイコー監督の『覇王別姫・さらば我が愛』である。「さらば我が愛」は邦題で余計だけれど、これも文革を扱っている。しかし、わたしが泣くのは文革以前の中華民国時代の京劇役者の主人公二人が子供の頃に京劇でしごかれるところ。わたしは日本の歌舞伎には興味がないが、中国の京劇は好きで、だからこの泣き方は心霊的なものであると確信している。

ついでに言うと、この映画はコン・リー(巩俐)の全盛期の作品で、このコン・リーは全世界の映画史上最高である。

世界はコン・リーを超えることはできない。なぜなら、もはや映画はNetflixなどネットで観るものになっていて、銀幕で鍛えることがないから。チャン・イーモウやチェン・カイコーら中国第5世代がギリギリ映画が銀幕だった時代であり、コン・リーは銀幕から生まれたスターなのである。映画は映画なんだという最後の時代。

さて、そんなチャン・イーモウも72歳であるらしい。そりゃ、そうだ。文化大革命をリアルに知っている世代はそれくらいになる。

ちなみに今の中国国家主席である習近平は父親が中国共産党の上層部であるエリートであったが、父が文革で迫害されて、それに伴い習近平少年は農村に下放され、豚や牛の糞尿の中で生きることを強いられた強烈な苦労人である。そこから国家主席まで登り詰めるのだから、日本の岸田首相とは人生経験の迫力において比較にならない。ちょっと日本人は漠然と中国共産党を悪く言うだけで薄っぺらであって、習近平がどれだけド級であるか、その人間レベルでのことがまるでわかっていない。

これはロシアのプーチンにも言えることで、KGBから大統領になったプーチンを日本のマスコミは「プーチン、プーチン」と軽々しく言うが、プーチンを人間レベルで考えてみるととんでもないド級の人間であって、敵う相手じゃない。中国やロシアという巨大な国土を持つ国を統治する人間というのは、ちっぽけな民主主義をやっているような国では想像し得ないような凄みがあり、まともにやり合って勝てる相手ではない。岸田と習近平、岸田とプーチン。笑えるほど相手にならない。象とネズミの差がある。

とまあ、そんな歴史が現代中国にはあって、文化大革命は当時の世代がまだ生きているからチャン・イーモウも映画を撮る。

さて、文化大革命を扱った映画はそれほど多くない。それはその汚点を晒されたくない中国政府の意向もあるだろうし、文革時代の政治家も生きているからそれを否定されたくはないだろう。

チャン・イーモウの『妻への家路』は文革を描いたけれど、しかし政治的意図はなく、夫婦の話に落としているのはそうしないと映画は撮れないし、そもそも映画を政治にするとおもしろくない。ここが原作とは異なるところである。

あとは同じくチャン・イーモウの『活きる』も文革を扱ってはいるが、文革以前からの登場人物たちの物語であるからテーマは文革ではない。これもコン・リーでものすごくいい映画。

ウェルメイドなのは『中国の小さなお針子』(巴爾扎克与小裁縫)であって、フランスとの合作。

文革を描いているがどぎつい描写はしていない。ラブストーリ仕立て。ヒロインはジョウ・シュン(周迅)。まだ若い頃でものすごくチャーミング。今はどうなっているのかは知らない。

わたしは周迅の顔が好きで、なぜなら猫みたいな顔だから。

最後に文革でないけれど、わたしが猛烈に感動した中国映画をひとつ。

『ただいま』(过年回家)。チャン・ユアン監督。

とてもシンプルな映画だけれど、ズシリと重い見事な映画。中国がまだ貧しかった時代の話。

1999年の映画だけれど、きっと中国では時代遅れ過ぎるに違いない。もう古典扱いだろうか。多分、30歳未満の中国人が見たって古いと感じてスルーされそう。

それくらい中国は20年で変わったよね。

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