結月でございます。
ミニマリスト化しているわたしにとってその傾向は食にも現れていて、もう何年も前からかな。
正直、おいしいものは日本だけでなく、フランス、中国といった美食大国で思う存分体験したし、そうなるとどんなご馳走も食べる前から、
「ま、こんな感じの味だろうな」
と、予測がついてしまい、食べてみると予測通りなのでなんとも思わない。
なんとも思わないものは感動しないから金をかけるのも馬鹿らしい。
だから、他人が作った料理よりも自分で作ったほうが、素人ゆえにたまに逸脱があっておもしろい。
狙ったつもりでもその通りでなかったり、それ以上の発見があったりするから。
外で食べることは滅多になく、よほどのことがないと食べに行かない。この傾向も随分前からで、その上、保守的というか、一途なところがあるから気に入った料理店があればそこだけに行きつけになり浮気をしない。
それは単にいろいろ探すのが面倒だからというスティーヴ・ジョブズの同じTシャツばかりに通じるところもある。
栃木に来てから行けなくなっている御徒町結月亭としている中国料理店。行きたいなと思いつつ、そこではいつもオーダーする料理が同じであって、何度も行って、何度も同じ料理ばかり食べている。それもジョブズのTシャツか。
おいしいから、同じものを頼んで、
「うん、これこれ」
なんて思いながら食べる。
さて、お酒に関してもわたしはオールランドドリンカーでなんでも飲める。しかし、ここ何年かはほぼハイボール、すなわちウイスキーのソーダ割りばかり。
なぜなら、ハイボールは和洋中、すべての料理に合うからであり、それどころかスパイシーなインド料理やタイ料理だってハイボールはオッケー。
昔はいいお酒も探求してたくさん飲んだけれど、今は国内最安値と思われるウイスキーをサンガリアの強炭酸水で割って飲んでいる。
ワインも日本酒も、そういった醸造酒も好きとはいえ、わざわざ味を感じるのが面倒で、
「あ、これうまいわ」
と、わざわざ感じなければならないことが面倒。
だから、今はスーパーで売っているプライベートブランドのウイスキーを4リットルボトルで買っている。これは4リットルも入って、プライスが2500円未満という激安ぶり。
昔だったら、こんなクソ酒、飲むことをプライドが許さなかったのに、今はそんなプライドはまったくない。
それどころかいいウイスキーはパスしたい。
理由はいいウイスキーも安いウイスキーも日常の食中酒としては大して変わらないなら安いほうがいいから。
いいウイスキーでお財布にダメージを与えながら飲む馬鹿らしさ。つまり、酒飲みの多くでさえ気づいていない事実は以下のことなんだよね。
「お酒は美味しいから飲むのではない。酔いたいから飲む」
これを逆に考えているひとがほとんどだと思うよ。
基本的にアルコールは毒なわけで、テイストが美味しいわけがない。要は不味いからなんとか美味しい味にしたいというだけな話。
なので、酔うために飲むんだったら安いお酒も高いお酒もアルコールという成分は抽出すれば同じであり、その他の不純物に差があるというだけで酔うことには変わりない。
だったら、安いのでいいじゃん。酔うために飲んでるんだから。
これを感覚的に理解し、王道を貫いているのが黒澤明の撮影監督をしていた名カメラマンの上田さんで、上田さんは居酒屋で何を飲みますか?とわたしが尋ねると、
「安くて利くヤツ。オレはいつもこれだ」
と、かっこよすぎて、さらにお勘定に優しい名台詞を言ってのけた。
というわけで、ミニマリスト化しているわたしも「安くて利くヤツ」路線であり、スーパーのプライベートブランドを日々飲んでいる。
これは安いがゆえに芳醇な香りが全然ない。そこが最大の魅力で、ソーダ割りをすれば純粋にさっぱりとしているので、料理を邪魔することが決してない。
この国内最安値に慣れてしまうと、角瓶でさえたまに飲むと、
「くっさー!」
と、ウイスキーのフレーバーが臭すぎて鬱陶しくなる。
「おいおい、こんなに香りがあっちゃ、料理が台無しじゃねーか!」
と、お酒と料理のマリアージュなんてアホなことを言っているひとも多いこのご時世に真逆なわたし。
そもそもマリアージュなんて結婚という意味のフランス語で言うんじゃねーよ!
わたしは何と何のマリアージュなんてボキャ貧ならではの臭い表現を目の前でされたら、多分、ぶん殴ると思う。結構いい加減で、かなり寛容だと自分の性格は認識しているけれど、マリアージュなんて言葉を使う感性と額面をちょろまかした請求書にはキレるよ。
というわけで、この手の言葉が乱用されている民放はその都度腹が立って疲れるから最初から見ないようにしている。
しかし、角瓶はやっぱりよくできたウイスキーなんだと思えるのは、日々、国内最安値でキメているからで、底辺にいるとノーマルでも上質に感じられる。
極上の酒ばかり飲んでいては舌が麻痺し、角瓶でさえ楽しめなくなるからこれは不幸だよ。
そういう意味で美食家って実は不幸なんじゃないかって思うわけ。
だっていいものを食べすぎて舌が麻痺し、身近にある美味しいものを美味しく感じられなくなるから。
実はわたしはフライドポテトが大好きで、正直、これだけあればお酒は十分に飲める。
これを知っているわたしの生徒は一緒に飲むときに居酒屋では黙っててもフライドポテトをオーダーしてくれるし、結美堂で飲むときは「フライドポテトを買ってきましょうか?」と言ってくれたりで、家人よりもちゃんとわたしのことをわかってくれていてうれしい。
フライドポテトはマックポテトのようにストレートタイプでなければならない。これはギザギザ型のものだといけない。居酒屋にそれしかないなら食べなくはないけど、フライドポテトはストレートに限る。
というわけで、ミニマリスト化しているわたしはフライドポテトと国内最安値のウイスキーで作るハイボールがあれば満足なので、とても金がかからない人間なのです。
さて、そんな国内最安値のウイスキーはこれ。
「なんだニャ?」(あまりにも禁断なネコ語)
いやいや、これはうちにいる猫のマオミィで、見てほしいのはこのラベル。これだよ、これ!その趣味の悪さが安さにマッチしているのもいい!
よく見ると笑えるんだよね。そこを拡大すると、
原種比率がモルト、グレーンが10%以上で、スピリッツが90%未満って書いてある。
モルトとグレーンっていうのは、ウイスキーの原材料で、この二つを混ぜればブレンデッドウイスキーだね。そしてモルトだけで作ればシングルモルトになる。
まあ、ほとんどのウイスキーがブレンデッドウイスキーで、それはモルトとグレーンを混ぜ合わせたほうがバランスが取れるから。一方、シングルモルトは個性がはっきりしたものになる。
で、そのモルトとグレーンが10%以上しか入っていなくて、スピリッツが90%未満。ここでいうスピリッツっていうのは焼酎だね。焼酎は作るのが安いので、そこに一応ウイスキー原料を10%ちょっとをブレンドしたってわけ。
ってことは、
「それ、ウイスキーじゃなくて、焼酎じゃん!」
となるんだけど、ここが日本のダメなところで、これをウイスキーと名乗れる法律になっている。
そして10%以上90%未満という表記がなかなかイカしていて、つまり10%以上ってせいぜい11%で、90%未満って89%だと思うだよね。
だから、ほぼ9割が焼酎でできたウイスキーで、それらしく見えるようにカラメル色素で茶色にしてるってわけさ。
でも誤解がいないように言うと、角瓶なんかも焼酎は混ぜてないけどカラメル色素で着色してますから。あれは熟成の色じゃないからね。
焼酎はウォッカとも言え、最近人気の缶酎ハイの材料もウォッカなる焼酎だからね。
こうした焼酎はクセがないから飲みやすい。だからこの国内最安値のウイスキーも大した香りがなく、料理を邪魔しないわけだ。
ウイスキーと思って飲むと、
「騙された!」
ってなるけど、ちゃんと製法を知っていればそういうものとしておいしく飲めるよ。
おいしいものは何も高い金出すものじゃない。
これもメーテルリンクの青い鳥と同じことだと思うよ。