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おもんないわーって言うてた。

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結月でございます。

先日、とある施設に使用申請書を提出したら施設から電話がかかってきて、日付が2021年になっているから修正印がほしいという。

そうなのである。昨年はわたしにとってマロオケ2021だけの一年で、2021とばかり喋ったり、書いたりしていたせいで、日付欄には無意識に2021年と書いてしまうほど頭に刷り込まれているのである。

十日前ほどに接種した3回目のワクチンの際もその問診票に2021と書きそうになった。今年に入ってからは2022年と認識するような仕事を始めていないので実感がないのである。

さて、そんなことはどうでもいいとして、高校のとき三木という仲のいい友達がいた。同じ京阪沿線だったから帰りの電車はよく一緒だった。

「おもんないわ〜 なぁ、なんかおもろいことあった、最近?」

と、あいつはいつも準急の椅子に座ってそう訊いてくる。

「いや、別になんもないけど」

と、わたし。

「ほんま、そうやなぁ。おもんないわ。おもろいこと全然ないわ〜」

と、なんとなく愚痴っぽくて、マイナス思考な奴なのである。

「なあ、俺ら、来年受験やデ。おもろないことばっかりやなぁ。どこの大学受けるか決めた?」

「いや、まだ決めてへんけど、阪大はええと思うなぁ」

と、わたし。

「阪大かぁ。阪大ええデなぁ。そやけど勉強してる?俺、あかんわ。」

とそんなことを毎度話ながら、わたしたちは大阪大学に玉砕し、最終的にわたしは熊本へ、三木は大阪市立大学へと進んだ。

お互い大学生になっても大阪では会っていて、

「なあ、大学、おもろい? 全然おもろないわ〜 なんのために受験勉強してきたんかと思てまうデ。そっちはどう?」

相変わらずで、いつもこんな感じなのである。そして、三木は就職して東京に来て、わたしも東京に来た。新宿の居酒屋で飲んでいると、

「ほんま、おもろないデ。サラリーマンっておもろないわ。おもろないのに毎朝起きて出社してんねん。サラリーマンの悲哀っちゅやつやデ」

わたしが銀座5丁目に店を出した頃までは年賀状が来たり、時々会ったりしたのだが、どこかでプツリと途絶えてしまった。古い年賀状は今でも持っているが、それは社宅の住所でその後がわからない。

三木に会いたいなとずっと思っているのに連絡の術がない。

わたしはこれでも縁はすごく大事にしているから、用事がなくても電話してみたりと縁が切れないようにしている。それなのにどうして三木の連絡先がわからなくなったのだろう? 銀座に開業したから忙しかったのだろうか。どうも思い出せない。

どこかで生きているに違いないのに会う手段がないとまるで故人のように感じる。だから、一緒に遊んだことを故人との思い出のように思い出す。

大晦日には京都の平安神宮に年が変わる30分前には訪れて、元旦に時計が切り替わると初詣をした。そして三条方面にトボトボ歩き、高瀬川の近辺にある「かっぱ寿司」で寿司を食べた。

それは回転寿司のかっぱ寿司ではなく、カウンター席が10席ほどの小さな店で、回転寿司のかっぱ寿司と関係があるのかはわからない。当時は回転寿司のかっぱ寿司は見たことがなかった。

「おみくじ引いたら小吉なんか出やがって、おもんないわ。腹立つからもう一回引いたら末吉やデ。ほんま、しばいたろか思たデ」

そんなことを話ながら寿司をつまんだ。

「おもんない」

なんて愚痴れるのは、実はそこまで悪くないのである。人間は本当に絶望したら何も話さなくなるものだから。

でも、受験勉強したり、サラリーマンやったり、おもろないことは多々ある。思い通りにいくことはほとんどないし、何をやっても不平は出るもので、おもんない。

わたしは「おもんない」とはあまり言わないけれど、「めんどくさい」はかなりの頻度で言っている。

今は5歳児の面倒があって、随分聞き分けがよくなったとはいえ、まだ未経験ゾーンが多い愛娘は無理難題を言ってくることがあり、

「めんどくせーなぁ」

と、わたしはつぶやいている。

仕事だってサラリーマンはやっちゃいないが、やりたいことをやるにはやりたくないことをたくさんやらなければならないから、

「ああ、めんどくさっ!」

と、ばかり言っている。

もし今、再会できたとしたら、

「サラリーマンなんて長く続けるもんやないデ。おもんないことばっかりやらなあかんねん」

そしてわたしは、

「好きに生きてても仕事となったらめんどくさいことばっかりやデ。おもんないことはないけど、めんどくさいことばっかりや」

なんて言っているに違いない。

でも、もう会えないのだろうなと思う。どうして三木の電話番号がないのだろう?

オルフェ銀座のことは知っているから、検索してくれればあいつからだとわたしにコンタクトが取れる。

思い出してくれ、わたしのことを。そして検索して連絡をくれ。

そうなるようにわたしは念力を送る。

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