結月です。
神尾真由子の『24のカプリース』のCDをかけた途端に変顔をしながらソファの上で踊りまくり始めるうちの愛娘。しかもずっと踊っている。
しっとりとした曲になると変顔のバリエーションが変わり、まるで舞踏家のようにその曲を表現している。
ほとんどの曲は楽しいらしく、その超絶技巧に踊って、踊って、踊っていた。おかげでゆっくりとパガニーニを聴けなかったわけだが、5歳児が反応して、動物的に踊り出すというのがいい曲なんだなと思う。これは阿波踊り的反応である。
しかし、うちの愛娘は3歳からバイオリンをやらせているというのにこの調子では将来、バイオリンでカプリースを弾くようにはならずに舞踏集団の「山海塾」に入りそうな雰囲気である。
さて、神尾真由子のカプリースであるけれど、あまりにもうますぎて、
「ハハハハ…」
と、笑いが出るほどで、人間はとんでもないものに接するとギブアップ感を超えた笑いが出るものだ。それは感動の叫び声よりもはるか先にある境地で、感動の最終形は悩殺された苦笑いである。
ともかく、そんなド級の演奏だったから5歳児も反応して変顔で躍り狂ってしまったのかもしれない。
そんな神尾真由子と12月に一緒にコンサートができるなんて、プロデューサーでありながらわたしは夢見心地である。
さて、コンサートをやるときはわたしはプロデューサーという立場であるが、人望があまりになさすぎて人を使うことができず、一番偉いはずでありながら広告宣伝担当であり、デザイン原案担当であり、コピーライターであり、インスペクターであり、座席を配席し登録する事務員であり、チケット窓口のお客様担当であり、チケットを郵送する雑務係であり、リハーサルが終わればそそくさと帰っていく演奏者たちが残した椅子を片付けるヒラであり、その他使いっ走りもやるマルチプルである。
これは自分一人で収まる範囲でしか公演をやらないからできるのであって、公演回数が増えればさすがに無理である。
しかし公演回数を増やす気はないのは、公演が多いと希少価値がなくなるし、メンバーたちとも馴れ合いになったり、逆に関係がギクシャクしてしまうだろうからで、人間というのは会うのは一年に一度くらいがいいものだと思う。
それに公演はかなりの大金がかかるので、ずっこけると首吊りものになる。首は吊らなくともスッカラカンになって露頭に迷うから「これは!」と思うものしかやらない。そもそも「これは!」と思うものは一年に何度もやるほどネタがないのだから、公演をすることを目的にすると大して興味もないものにまで手を出してモチベーションの質が汚れてくるからよろしくない。
ともかく、公演となると一人10役以上はやるので疲れるのである。好きでやりたいことでないとこんな疲れることをやろうとは思えない。
しかし不思議なもので音楽だけは自分から離れない。大学を卒業してからは音楽なんてやらずに警備員や百貨店の野菜売り場で働いていたのに、結局弦楽器販売に転職すると音楽に戻ることになった。そして楽器のことはやめて、着物に徹しようと思って着物を始めたが、着物だけだとつまらないことがわかって着物でコンサートをやり始めた。
でも、2016年にサントリーホールでやって「もう十分満足!」と思い、音楽と決別できそうだったのにそしたら船橋市のホールから公演依頼が来てまたやることになった。
そして意に反して栃木に来ることになり、育児ばかりして音楽の仕事はほとんどなくなって2年ほど過ごしたらまたコンサートをやる機会に恵まれた。それが昨年でもうこれで音楽からは足を洗おうと思ったら、今度は新規のオーケストラを立ち上げることになった。
新規のオーケストラ、Japan General Orchestraは10年は頑張ろうと思っているから、あと10年は音楽をやりそう。
何度か途切れたと思った音楽の縁はすぐに修復されて戻ってくる。
もはや音楽は好きなものという認識はなく、過去の記憶でしかない。今やろうとしているのはきっと音楽ではなく、公演というイベントにある喜びなのかもしれない。
公演をやって一番嬉しいのはお客さんが自分の企画に対してチケットを買ってくれること。中にはすごく楽しみであることを熱弁してくれる人もいる。お金を出してでも会場に来てくれて、その時間と空間を楽しんでもらえるということが一番嬉しい。
だから、今は音楽そのものよりも音楽を提供する行為が楽しいのである。
今回は新しいオケを立ち上げ、それも老舗のオケのような運営をしないという点で新しいというか、勝手気ままである。他人のことは参考にしない。もう時代は変わっているから、昔からあるものはあまり参考にならないのだ。
とはいえ、新しいことを始めるときはちょっぴり不安になることもある。これでいいのかなと疑うときもなくはない。なぜなら、過去に事例がないからであり、やってみないとわからないから。
でも、いち早くチケットの申し込み、まだ発売もされていないうちから「行きます!」と言ってもらえると一抹の不安は吹き飛ぶ。期待してくれる人がいると思うとエネルギッシュに前向きになれる。
最近嬉しかったのは、オーケストラ名の「Japan General Orchestra」というネーミングが素晴らしいと言ってくれた人がいたこと。
Generalという文字通り一般的な単語を使ったのはわたしなりに考えがあってのことだが、その方はわたしよりもずっと深くその単語の意味を理解してくれていて、わたしが曖昧に捉えていた雰囲気的な理解を明確にしてくれた。
新規の名称というのはそれが定着するまで時間がかかる。それを自分のものとしてアイデンティティを覚えるには時間がかかる。
結美堂という社名も発足したときは電話で「結美堂です」と応えるのが気恥ずかしかった。でも、結美堂の名の下でいろんなことをやって、いろんな契約書に結美堂と書いたり、お客さんがら結美堂と呼んでもらえたらりして、やっと定着してくる。そして愛着になる。
だから、Japan General Orchestra という名もまだ気恥ずかしさがあるのだけれど、そのメーミングが素晴らしいと感じてもらえると自信になってくる。
ともかくうまくいくかわからないけどやってみる。目標10年。いや、うまくいかないことはたくさんあるに違いない。そもそもうまくいくこと自体が珍しい。今までやってきたことでうまくいったことなど思い出せない。必ず大きな苦労があるものだから。
そんな苦労の中、メンタルがやられそうになったときに助けてくれるのもお客さん。たった一本の電話で、
「あの、チケットまだありますか?」
と言ってもらえるだけで急にハイになる。
そんな一喜一憂で進むのが公演でありながら、自分がやれることをやってみる。結果はやってみないと生まれないものだから。
ということで、今年12月7日(水)は紀尾井ホールで神尾真由子による四季二つ。それと弦楽チームでコレルリ2曲。
うちの弦楽チームも素晴らしいし、神尾真由子は圧倒されるほどド級です。ぜひ、お越しください。