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鬼滅がヒットする理由

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結月でございます。

テレビで鬼滅の劇場版が連日放映されていたので見ていた。興行収入が第1位となった最新作は土曜日に放映されるらしい。

予告編やポスターを見てそんなに興味がそそられなかったから映画館には行っていないけれど、タダなら見てみようと思う。興行収入トップというのは必ず理由があるはずで、そこには興味があるから。

あとは鬼滅など一度も見たことがないのに4歳の愛娘は保育園の友達に教わったのかキャラの名前に詳しい。

さて、そんな鬼滅を見てヒットする理由がすぐにわかった。ちなみに映画としては大した作品ではないこともわかった。映画としては特段おもしろいわけもなく、映画として新しい試みをしているものでもなく、古いと言えば古いし、定石通りと言えばそうだし、まあ普通だった。

ではなぜあれほどヒットしたのか?

鬼滅は自己啓発本なのである。そして鬼滅はビジネス本なのである。

何かしらの弱さを持った登場人物が強くなっていくプロセスは今時の自己啓発本にそっくりで、さらにその胸中を言葉にして、つまりセリフとして全部説明してしまうところもビジネス本。

純文学と自己啓発本の大きな違いは「語る」か「語らない」か。

純文学は語らない。言いたいことを言わずに遠回しに表現していき、何かを感じさせる。だからこれといった答えがあるわけでない作品が多い。

しかし、自己啓発本とビジネス本は答えを書く。それは正解でないかもしれないけれど、とりあえず「こうだ」という答えらしいものを提示して説明する。

こうやったら30代で年収が1000万円になりますよ、みたいな本当か嘘か怪しいことでもとりあえずそれらしい答えと方法があるように書く。

炭治郎の鬼退治の技はビジネス本的なプロセスで、本当にそれで鬼を退治できるかは怪しいけれど、そこはアニメだからできてしまう。ビジネス本は書かれていることを読んでできる気になりはしても大抵はできないのはアニメではなく現実であるから。

炭治郎はもちろん、鬼となった元人間もメンヘラ体質で過去に闇を抱えている。その闇はとても現代的で、それは虐待の経験であったりして、舞台は大正時代としても内容はとても今風。

今に生きている人たちにありがちな精神的問題を登場人物に投影しているので、そこもヒットの原因。

もしこれが大正時代の人たちの考え方や社会状況なんかで歴史的な検証でやられたら共感なんてできやしない。

と、そんな今風のメンヘラが悩み、葛藤し、そして自分を奮い立たせて鬼退治をしたり、もしくは鬼として鬼殺隊と戦ったりするのは自己啓発本そのままなのである。

そして、鬼殺隊にも序列があって、柱という格上の強さを持った人たちがいる。これはまさしく今の自己啓発系セミナーのようで、オンラインサロンのようでもある。

頑張れば自分も成功できるという空気があって、そこにはカリスマがいて、自ずと序列ができていく中で認められるために上を目指す。

ともかく、炭治郎の葛藤は自己啓発本的なネタであり、その剣術の習得はビジネス本的である。

だからこそ、映画としてわたしは鬼滅は大したことないと思ったわけで、映画という芸術の凄みではなく、鬼滅は内容として今の人たちが抱える自己啓発的なところをうまく捉えてヒットした。

また興行収入第1位になったのは、連作ものであることが大きい。

そこが宮崎駿の千と千尋と異なるところで、一発勝負と連作での盛り上がりで作り方が異なる。つまり、少年ジャンプで連載が先行していることを除けば、鬼滅はスターウォーズに近い。

興行収入で抜かれてしまった千と千尋はやはり映画らしい映画であり、映画であると思わせる。宮崎駿独自の表現があり、それは彼にしかできない表現として独立している。

鬼滅はやはり原作があるからそこは逸脱できず、独自の映画表現は築けない。

しかし、鬼滅がヒットしたというのは、できるだけセリフで説明はしないという映画らしさを考えることなく、剣術でどうやれば鬼を倒すことができるかというプロセスや考え方を全部セリフで説明させているところだろう。

今はなんでも説明の時代であるから。

わかりやすく、くどいくらいに説明する。

説明してあげないとわからない。

想像力を働かせるのではなく説明。

成功への方法をわかりやすく説明する。

鬼滅に限らず、テレビのバラエティであっても状況をツッコミですかさず説明している。おまけにテロップまで出る。

悩みから解放されるための考え方を徹底的に説明する自己啓発本。

成功のための方法をわかりやすく説明するビジネス本。

想像力はまったく使わない。

だから、鬼滅を見ていても想像による感動はなくて、物語はセリフによる説明によってすべて納得できている。

わたしが映画というものは考えるものでなく、感じるものだと思っているから鬼滅は映画としてはつまらなかった。登場人物たちが抱える過去や苦悩も現代ではありきたりで、皆が知っているもので驚きはない。

しかし、そこがヒットの理由で、ありきたりなほど身近なテーマであるからこそ、映画を見て自分と重ね合わせることができる人が多かったのではないか。

わたしはそこまでメンヘラではないし、悩みも葛藤しないですぐに自己解決してしまうから鬼滅の登場人物には共感しなかったし、幼稚だなと思った。

でもそれが今という時代なのだ。

鬼滅を見てそれがよく再確認できたし、ヒットの理由も理解できた。

ところでわたしが好きな鬼滅のキャラは、胡蝶しのぶ。

善逸も好きだけれど、ちょっとうるさいかな、と思う。

シリアスな描き方からアニメ的間抜け演出に頻繁に切り替わるのも鬼滅の特徴であれど、それが鬱陶しいと感じることが多い。せっかくの感情移入を邪魔されてしまう。

でも、そういう抜き加減が真剣さだけだと疲れてしまう「今」という時代にマッチしているのだとも思った。

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