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L’esprit de l’escalierはいつもある

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結月です。

フランス語に、L’esprit de l’escalierという言い回しがあって、そのまま訳せば「階段の機知」ってことになる。

これは誰かと話していたり、何かを取り組んでいて、さあ帰ろうと階段を下りたとき、その階段の途中で、

「しまった!ああ言っておけばよかった!」

だとか、

「思えば、あんなつまらないことは言わなければよかった…」

だとか、

「あれを言うのを忘れちまった!」

といったことに気づき、後悔することを言う。

わたしは記憶力があまり良くないので、言い忘れをすることがあり、「あっ!」と突如思い出し、「しまった…」と思うことがある。

とはいえ、今はSNSが普及したおかげで、言い忘れがあってもすぐにLINEでそのことを伝えられたりできるから、大事に至ることは少なくなった。

ネットもなく、電話もない時代なら次にその人に会えるのがいつかわからないとなると、L’esprit de l’escalierは大きな後悔になったことだろう。

しかし、いくらSNSの時代だとは言っても、

「あんなこと、言わなきゃよかった」

という後悔はなかなか消せるものではない。

LINEで「ごめんね、あんなこと言っちゃって」と謝っても、言ったしまった事実は変わらないから致命的な粗相となる。

ともかく、人間というのはリアルタイムでは完璧になれないもので、大事なことを言い忘れたり、余計なことを口走ったりと「しまった!」という事例は多い。

L’esprit de l’escalierをできるだけしないようにするのが政治家なる職業で、政治家がちゃんと答えないではぐらかしたりするのは、言ってしまったミスが命取りになるからで、実際、L’esprit de l’escalierのおかげで辞任する人はいる。

一方で、L’esprit de l’escalierがまったくない人だっている。失言をしまくっても、言わなきゃいいことを言っちゃていてもそこに自覚がないから階段上で「しまった!」と後悔することがない。

これは「悪い奴ほどよく眠る」の理屈と同じであって、傍若な人間は気楽なものなのである。

しかし、L’esprit de l’escalierばかりしているのもよくなくて、そんな後悔ばかりしてジメジメした性格になるのも困ったものだ。

意外と言わないより言う人間のほうが付き合いやすいもので、言わないことで保身になると腹黒く思われるし、大事なことなのに言ってくれないと周囲が困ることだってある。

ちょっと前だと石原慎太郎だとか、言わなくてもいいことをベラベラ喋るから、

「ああいう人だよね」

と、キャラで認知してもらえて、わかりやすい。だから対応も実はそんなに面倒でない。

しかし、保身で腹黒となると攻略するのが難しく、気が抜けない。

さて、パリの階段のことを思い出してみる。

モンマルトルの丘にはサクレ・クール寺院があり、そこに至る階段には多くの人がそこに腰かけている。

モンマルトルはかつて画家が集まったり、ムーランルージュがあったりするけれど、パリ好きのわたしはどういうわけかモンマルトルが合わなくて、あまり行きたいと思わない。

街には場の雰囲気や色合いがある。モンマルトルはどうも駄目なのである。

やっぱりわたしはパリ左岸派で、セーヌ川の向こう側は肌に合わず、それは理屈ではなく「感じ」るものとして合わない。

サンミシェル、サンジェルマン・デプレ、リュクサンブール、モンパルナスなどなど、やはり左岸がいい。

と、パリではサクレ・クール寺院に行かないせいか、階段の記憶がない。

リヨンではオペラ座の横にある広場で、数段の階段で座ったことがある。

それは日本に帰るためリヨンを離れる前日の夜で、気持ちはずっとフランスにいたいのに、日本には帰りたくないのに明日はパリに戻り、一泊してから飛行機に乗らねばならず、リヨンでの日々をしみじみと感じながら夜のオペラ座を眺めながら階段で座っていた。

だから、わたしにとってのL’esprit de l’escalierは、リヨンの思い出のL’esprit であり、後悔ではなく、別れたくない恋人との別れのような寂しさ。

そんなことを思うと、またフランスに行きたくなってきた。これは病なのである。

今すぐリヨンに行きたい。リヨンの空気を吸い込みたい。

それがすぐにできないから、歯痒くていたたまれなくなる。

フランスのことなど思い出さなければよかった。

だから、

J'ai l'esprit de l'escalier!

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